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オタク女子的芸術鑑賞〜「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」編〜

あまり公言したことがないのですが、博物館や美術館の特別展に行くのが好きです。アイドルや俳優の現場に行く数に比べたら少ないけど、結構足を運んでいる方だと思います。(全然関係ないけど、館つながりで科学館も好き)

とはいえ、いつも行っただけで満足しちゃって、その時に感じたこととか、学んだこととか、時間が経つとどうしても忘れてしまうので、これからはできるだけ書き残しておこうと思い始めました。知識は蓄積しないと意味ないからね。

ということで、8月26日に福岡市博物館で行われていた特別展『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』に行った時の話を書きたいと思います。この日は展覧会の最終日だったのですが、人出が多くて驚きました。リピーターも結構いたのかもしれないですね。

この展覧会に行くまで、私の中にある浮世絵のイメージは、人の存在が際立った役者絵や美人画東海道五十三次のような富士山が描かれた風景画、あと、梅の木が画面の真ん中に横切ったようなもの。とにかく骨太で大胆な作品が多いイメージでした。だけど、今回展示されていた作品は繊細で優美なものばかりで、浮世絵に対する印象が一気に変わりました。そもそも私は浮世絵のサイズ感もよく分かっていなくて、大きいものだと思い込んでいたのですが、基本的に四つ切りサイズくらいなんですよね。なので、ますます細かく書き込まれた作品の多さに思わず見入ってしまいました。

浮世絵、と一言で言っても様々なジャンルがあることも知ったのですが、その中でも特に興味深かったものが3つほどあります。

まず、「見立絵」です。見立絵とは、歴史的事実や故事、物語を当世風に見立てて表現されたもの。違う作品なんだけど、同じような構図で、そこに描かれた人物が違っているのがあるのも興味深かったです。有名な歌人やお坊さんを美女に見立てて描かれたものなんて、刀が美青年になったり、戦艦が美少女になる現代の「擬人化」にもつながるような気がして、日本人のDNAに刻まれているのはこれか、と思いました。見立絵で特に印象に残っているのは『見立玉虫 屋島の合戦』という作品なのですが那須与一が海に浮かぶ平家の船に掲げられた扇を矢で射るシーンを見立てた男女の絵で、背景に「茄子畑」が描かれているのも洒落が効いていて面白いな、と思いました。見立絵には元ネタが明かされていないものも多いらしいのですが、原典がすぐに何か分かると嬉しかったんだろうな〜と、当時の人々の気持ちを想像してしまいました。

次は、「絵暦」です。元々、文字が読めない庶民のために絵で表したものらしいですが、ここで見たもののほとんどは、絵の中に文字が隠されていて、それを読み解いて暦として使うものでした。とはいえ、着物の柄や背景に隠れた文字を探すのはとても難しく、あまり実用性はなさそうでした。当時、教養人の間で絵暦交換会が流行ったのがきっかけで広まったそうです。文字を見つけられるかどうかはさておき、その細やかさに驚きました。あれ?浮世絵って版画だよね!?どうやって彫ったの!?と何度思ったことか。絵暦は教養人が依頼して制作されているのですが、絵暦としてだけでなく、当たり前ですが、絵画そのものがとても美しく、暦の文字の部分や依頼人の名前を削られたものが普及版になっているものもあるようです。文字がなくなると何だか画面が寂しくなっているものもあって、実用的でなくても、文字の存在感は重要なのかも。

最後は、ジャンルではないのですが、実在する美女を描いた浮世絵です。所謂「看板娘」と呼ばれた彼女達はその当時、「会いに行けるアイドル」のような存在だったんでしょうね。浮世絵はブロマイドみたいな感じかな。今でも美男美女がいるお店って話題になるけど、これって万国共通なのかな。展覧会では、町で評判の美女ばかりを集めた絵本も展示してあり、現代の「美少女図鑑」や「美人時計」を思い出してしまいました。街角スナップ写真集みたいな感じで面白かったです。こういう作品を通して、江戸時代の町娘のことを私達が知ることができるっていうのも、何だかロマンがありますよね。

正直、展覧会に行くまで「鈴木春信」という浮世絵師のことを知らなかったのですが、浮世絵に対する印象が本当に変わったし、彼の作品が大好きになりました。そして、他の浮世絵師の作品ももっと見てみたいと思いました。

博物館や美術館の特別展に行くのが好きです、と最初に書きましたが、美術に関する知識はそんなにありません。作品の背景にある歴史のこともよく分かりません。きっと私には表面的な部分しか見えてないんだと思います。それでも、目の前で実物を見ることの大切さをいつも感じます。そして、たくさんの美術作品に触れることで、自分の人生を少しずつでも豊かにできると信じています。